妊婦のいる情景 Ⅳ

つわりというつわりがなかったせいか(やたら眠くはある)あんまり妊婦だと言う自覚がない。日に日に大きくなっていくお腹も、マックスに太ってたときこのくらいあったかねぐらいの感覚・・。そんな俺のせいか最近ゆきのすけがぽこぽこお腹の中でよく動いている模様。
そういえば妊娠して自分の中に変化があったのは、仕事関係に関してだった。私は営業課に属していて所謂営業事務をしているのだけれど、自然仕事内容は営業の補佐 営業の書類を取りまとめることが中心。仕事を「1」頼まれれば性格上せめて「3」にして返したいと思って今までやってきた。営業の個人の性格を(仕事上ではあるけれど)把握し、先を読んで取りこぼしのないよう仕事を取りまとめるのが好きだったし、一見無理難題を言われてもたいしたことないけれど自分の知識を総動員して解決の道を探し出すのも好きだった。しかし、妊娠してからというもの、そういった作業をしたくない自分がいる。
仕事を依頼され、何を要求されているか把握し、さらに不足部分を把握し、的確な指示を出し、求めている結果を導き出す。今まであまり意識していなかったけれど、私が愛しているといってもいい仕事のこの一連の流れ。機械的にやっていると思っていたけれど、その中にはかなり「相手のことを考える」要素が入っているよう。
それをどうもゆきのすけが嫌がっている感覚がある。
仕事を頼まれても「もう自分で勝手にして」と思ってしまう。いや、やりますけど。でもすごく嫌々。時間もかかる。今までこれでおかーちゃんご飯食べてきたからさ・・少し我慢しておくれよとゆきのすけに話しかけてみるけれど。
きっと太古の歴史から妊婦はお腹の子供のことだけを考えるようにできているのだろう。
私の中にもその歴史の記憶がきっと残っていてそのようにふるまいたい本能があるのだろう。
ごめんね。私の本能。ごめんね。ゆきのすけ。
飼い殺されて行き場をなくした私の野生の部分。
せめて今夜は夢を見る。
アフリカのサバンナで眠る身ごもった牝ライオン。
日中は木陰で眠り、体を休めて 敵が近寄れば容赦なく牙をむいて相手の肉を食い破る。 返り血だらけになって荒野をさまよう牝ライオン。 それでもお腹の子に微笑む牝ライオン。 そこに帰りたいと本能が泣いてる気がする。でもきっと帰れない。身体もすっかりへなちょこ仕様。
そういう意味ではサバンナより怖いぞ現代社会。
そういう意味ではサバンナ以上のサバイバルだ現代社会妊婦。
へっぴり腰で立ち向かう予定。