輝きはもどらない私が今死んでも

その帰り道 JRの乗り換えで移動中。あの人がいた。まだ少年だった頃から変わらない襟足。2年前と多分同じ黒い鞄。ゆっくりとした足取り。多分間違いない。でもこの道にいるのはあまり考えられないし、ちらと見えた横顔は少し違う気がした。でもいつか会う事もある。十分考えられる。わかっていた事だ。だけど情けないくらい胸は震える。急いでエレカシを入れたSDを耳に突っ込んで松任谷由美のカバーを繰り返し聴く。言い聞かせるように。
   「どんな運命が愛を遠ざけたの 輝きは戻らない 私が今死んでも」
大丈夫。私は今泣いてない。涙は出ない。吐くような嗚咽もこみあがってこない。上出来だ。あの頃よりずっとずっと 鈍くなっている。あんなに触れたくて気が狂いそうだった背中。今日は確かにあの背中と自分の未来を重ねる事ができなかった。上出来だ。
でも今日はこれ以上音楽を聴いてはいけない。そして決して相方に電話をしてはいけない。